東京都知事選が行われた2月9日。選挙特番開始と同時に舛添の当確が発表される虚無感が微笑ましい限りです。そんな大雪明けの日曜日、僕は投票会場の小学校を華麗にスルーして、埼玉県吉川市の中央公民館に赴きました。
埼玉県吉川市。埼玉県の中でも特にマイナー度が高いと思われるこの土地。日本で一番狭い市として一部の地理マニアの間だけで知られていた蕨市が、2000年にSUPER BELL”Zの「MOTER MAN (秋葉原〜南浦和)」の「ワ〜ラビです!」で一気に知名度を上げたのに比べ、あまりにマイナーすぎです。そういう自分は、つい数年前鳩ヶ谷市に住んでたんですけどね。今や川口市に吸収されて消滅しましたが。。というわけで、JR武蔵野線で越谷レイクタウン駅の隣、吉川駅に初めて降り立ちました。
向かったのは、園子温監督「希望の国」の自主上映会。Yoshikawa Film Supportersという、吉川市の有志による主催のイベントです。今回上映の「希望の国」は、鬼才・園子温が原発事故をテーマにメガホンを取った、2012年の作品。大地震で原発が事故を起こし、強制避難させられる住民の悲哀を描いたヒューマンドラマ――事前に仕入れた情報はこれくらい。レビューサイトなど調べていくとバイアスがかかっちゃうので、最近はなるべく直感だけで観に行くようにしているので。
会場は、いわゆる公民館ということで映画館とは違った独特の雰囲気。上映開始前に、この上映会開催に至った経緯を運営事務局の人が説明したり、昨日撮ったばかりという園子温監督のメッセージ映像が流れたりしました。エントリーの冒頭で吉川市のことをdisってしまいましたが、こういった取り組みは素晴らしいと思うので、ぜひ継続してほしいです。そうこうしているうちに本編が始まったものの、ステージ奥の小さなスクリーンに映る映像はやや迫力不足。たまらず前列に移動してしまいました。。
さて、その作品なのですが、、、どうなんでしょう? 園作品の特徴って、虚構の世界だからこそ描けるリアリティにあると思うんです。傍目から見たらそんなバカなと思えるような映像表現の中に、人間の闇と真実が炙りだされるような。。「愛のむきだし」の主人公ユウが女囚サソリの出で立ちで披露する、あり得ないオーバーアクションでのパンチラ盗撮術。「恋の罪」のインテリ娼婦・美津子の、全くもって理解不能な行動原理。でもその荒唐無稽さが、逆に人間の心の傷や葛藤を見事に描き出す。これこそが園子温ワールドの真骨頂だと思うのです。
ところがこの「希望の国」、はっきり言ってぬるいです。誰が撮ったのか分からないくらいぬるいです。今なお苦しんでいる被災者に気を遣ったのか知りませんが、全編を通してオブラートに包まれたような映像が続きます。そんな空気なので、いずみ(神楽坂恵)が突然防護服に身を包む場面が妙に浮いちゃってます。この程度の破天荒さは、いつもの園子温なら何でもないシーンなんですけどね。最後の銃の場面も、何かキレイに終わっちゃって消化不良な感じ。もっと血がドバーッと吹き出したりして、見る者の感覚を麻痺させるくらいじゃないと、園子温らしくないです。そう言えば音楽もほとんど無かったなー。
「恋の罪」が、ベースとなった東電OL事件を再解釈してハチャメチャな映像にしながらも独自の世界を描いているのに対し、この作品は結局何が言いたいのかさっぱり分かりません。やっぱり下手なことすると被災者サイドからクレームが出たり、原発村から有形無形の圧力が加わったりするのでしょうか。過去に「自殺サークル」が問題になったことがあったけれど、その頃と違って今は巨匠になっちゃったっていうことなのかもしれません。実に残念です。
と、文句ばかり書きましたが、そんな中で光っていたのが主演の夏八木勲。実に圧巻の演技でした。その頃すでに膵癌を患っていたらしく、誰にも明かさず撮影に臨んでいたそうです。恐らく役者人生最後であったろうキスシーンも、衝撃的に素敵でした。合掌。
希望の国
http://www.kibounokuni.jp/
©2012 The Land of Hope Film Partners
2014.2.20追記
冒頭に投票会場を華麗にスルーしたと書きましたが、それはこの映画を見るまでは決められないと思ったためです。帰りにしっかり投票し、予想どおり死票になった事実をここに記しておきます。