image

渋谷のシネマライズで「キューティー&ボクサー」を観てきました。劇場で映画を観るのは今年3本目。元旦にシネクイントで「ブリングリング」を観た帰りに目に入ったインパクトありまくりの看板が脳裏に焼きつき、さらに次の日に行った吉岡徳仁-クリスタライズ-展覧会@東京都現代美術館のミュージアムショップでたまたまフライヤーを見かけて、これは観るしかないというわけで行ってきました。いやー、フライヤーのバラ撒きって大事ですね。

image

というわけでこの「キューティー&ボクサー」。タイトルだけ見るとスポーツ物に女の子が絡んでるのかなーなんて感じですが、実際に出てくるのは爺ちゃんと婆ちゃんですw それがもう、メチャメチャ素敵で可愛い爺ちゃんと婆ちゃん。ニューヨークで活動する日本人芸術家“ギュウチャン”こと篠原有司男と、その妻である乃り子をひたすら追いかけたドキュメンタリー映画です。

篠原有司男は1932年生まれの前衛アーティスト。「ボクサー・ペインティング」で結構有名らしいんだけど、すみません私は全然知りませんでした。1969年に渡米し年齢的には大御所の風格が漂いながらも、商業的に成功しているとは言い難いのが実情。ブルックリンの安アパートでの暮らしは家賃も光熱費も滞納中でライフラインがストップ寸前。次の作品で一発当てないと生きていけないという生々しい日々が描かれます。それなのに切羽詰まった空気や卑屈な印象は微塵もなく、日々を淡々と自分たちのペースで過ごしている姿が、さすが芸術家なんだなーと感じました。

ドキュメンタリー映画なので、ストーリーというストーリーは無いのですが、全編を貫いているのはギュウチャンと乃り子の夫婦愛。この篠原有司男はかなり破天荒な人物のようで、その妻を努めていくだけでもきっと大変なこと。実際に電気を止められたことも、きっと一度や二度じゃないと思われます。それでも芸術家・有司男を心から尊敬し、アシスタントとして作品づくりを手伝っている乃り子の姿はとても美しい。

でも実は、乃り子自身も元々はアーティスト志望で、表現者としてのプライドを捨てていない。一定の評価を得た有司男の芸術性に比べると、乃り子の作品はお絵描きレベルで勝負にならないと思うのですが(失礼)、でも「私だって!」という気持ちは大事にしたいですよね。画商が有司男のアトリエを訪れたとき、さり気なく自分の作品をアピールしたりとか。でも結局夫の作品ばかり注目されて、ちょっと悲しい気持ちになったりとか。でもでも、最後には夫婦二人の企画展が実現してめでたしめでたし。

image

アートに人生を捧げる尊さ、厳しさ、辛さ、喜び、楽しさ、そのすべてが詰まった良作だと思います。監督は29歳の新鋭、ザッカリー・ハインザーリング。第86回米アカデミー賞の長編ドキュメンタリー部門にノミネートされたそう。3月2日の授賞式がちょっと楽しみです。

キューティー&ボクサー
http://www.cutieandboxer.com/
©2013 EX LION TAMER, INC. All rights reserved.

投稿 | 編集