キングコングの西野亮廣氏が「お金の奴隷解放宣言。」と題して、自身著作の絵本『えんとつ町のプペル』をネット上で無償公開したのが一昨日のこと。瞬く間に賛否両論さまざまな意見が飛び交い、炎上と言ってもいい状況だったけど、今日の西野氏のブログエントリーで一つの回答が示されたと思う。この件についてはマーケティング的に考えさせられることが多かったので、2年以上ぶりにブログを書いてみることにしました。

まずはこちらを読んでいただくとして(正直このタイトルのセンスは微妙だと思うけど、言っていることは極めて正しい)。

この無料公開の話を聞いたときに上手いなと思ったのが、「絵本」という形態は(西野氏が言うところの)“物質的価値”が極めて高いということ。ここに目をつけた西野氏のビジネス感覚は素晴らしいというほかない。

小説や漫画などの書籍や新聞・雑誌などは、情報そのものの価値と比較して、物質的価値がそれほど高くない。音楽をパッケージしたCDや、映画など映像コンテンツを収めたDVD/BDも同じ。だから紙の媒体が衰退してWebや電子書籍にシフトしているし、音楽や映画もストリーミングで十分な時代となっている。例えば西野氏が自著「魔法のコンパス 道なき道の歩き方」の電子書籍版を無料化したら、どうなるだろう。もちろん宣伝効果で紙の本も多少売れるだろうけど、多くの人は無料の電子版で十分だと思うんじゃないかな。

一方絵本は、物質的な価値が極めて高い。正確にいうと、物質があることでその体験価値が飛躍的に高まる。「情報価値 × 物質的価値 =体験価値」という計算式が成り立つとして、小説や漫画などと比較して物質的価値のウェイトが大きいのだ。絵本の内容の素晴らしさを知ったら、手元に置いておきたくなるよね。子供に読み聞かせるなら、スマホの小さい画面をフリックするより、大きな絵本の手触りを感じながらめくるほうがいいよね。最近アナログレコードの人気が再燃している理由も、この理屈に当てはめれば自然と理解できる。音楽自体はスマホで聴くようになった今、物理メディアとしてのCDにはもはや価値が無いけど、アナログ盤には魅力があるもの。

デジタル化によって情報を届けるコストが限りなくゼロに近づいているのに対し、物理メディアには生産コストと流通コストがどうしてもかかってしまう。だから情報だけを無償で先に届けることでその価値を伝え、物理メディアの販売を通じて情報の生産コストも含め回収するというビジネスモデル、いわゆるフリーミアムモデルが意味を持ってくる。これがうまく回ると、売上の最大化に繋がるだけでなく、「お金の問題じゃなくて、一人でも多くの人に届けたい」というアーティストの欲求も満たすことができる。みんなハッピー。

ただここで注意したいのは、物理メディアの物質的価値は、情報価値が高い場合に初めて認められるということ。「情報価値 × 物質的価値 =体験価値」の計算式に当てはめると、情報価値がゼロならばどんなに物理的価値が高くても体験価値はゼロになってしまう。タダでもらったけど読まないままゴミ箱行きになった本、いっぱいあるでしょう? クオリティの低い絵本はタダでも読まれないし、クオリティの高い絵本はネットで無料公開しても売れるのです。

「お金の奴隷解放宣言。」というタイトルは挑発的だし、誤解を招きかねない表現もあったと思う。でも少なくとも、クリエイティブに対価を払う流れを阻害する行動ではない。むしろ情報がタダで手に入る時代にそれをどうやってお金に変換するのか、ひとつの方向性を指し示してくれたと評価したい。

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